曲がる太陽電池が拓く未来:EVから携帯電話基地局まで

(出所:2024.7.17付日経新聞)

はじめに

太陽電池技術の新たな革新として注目を集めているのが、「ペロブスカイト型太陽電池」です。

この技術は、従来のシリコン型太陽電池とは異なり、柔軟性があり曲げることができるという特徴を持っています。

京都大学発のスタートアップ企業、エネコートテクノロジーズが開発を進めているこの技術は、自動車産業から建築、通信分野まで、幅広い応用可能性を秘めています。

曲がる太陽電池の技術革新

ペロブスカイト型太陽電池は、ヨウ素と微量の鉛などを使用した特殊な結晶構造を持つ化学材料を使用しています。

この技術により、フィルムやガラス上に結晶を形成することができ、従来のシリコン型太陽電池と比べて生産コストを大幅に削減できる可能性があります。

エネコートテクノロジーズは、7.5センチメートル四方のパネルで世界最高水準の電力変換効率を達成し、さらに30センチメートル四方の大型パネルの製造技術も確立しています。

この技術進歩は、ペロブスカイト型太陽電池の実用化に向けた大きな一歩となっています。

特筆すべきは、ペロブスカイト型太陽電池の主要原料であるヨウ素の埋蔵量が日本で世界一であることです。

日本は世界のヨウ素埋蔵量の約7割を占めており、この豊富な資源が日本の競争力を支える重要な要素となっています。

日本国内で豊富に入手可能なヨウ素を主原料とすることで、サプライチェーンの安定性と環境負荷の低減にも貢献できると期待されています。

これは、日本のエネルギー安全保障の観点からも重要な意味を持ちます。

日本のヨウ素生産を担う主要企業のうち、株式を上場している企業は以下の1社のみです:伊勢化学工業株式会社(証券券コード: 4107 )

自動車産業への応用

トヨタ自動車とエネコートテクノロジーズは、2023年から車載向け太陽電池の共同開発を進めています。ペロブスカイト型太陽電池の柔軟性を活かし、電気自動車(EV)の屋根やボンネットに搭載することを目指しています。

この技術が実現すれば、年間3000キロメートルの走行分を発電することが可能となり、近距離走行であれば充電がほぼ不要なEVの開発も夢ではありません。

2030年の実用化を目標に、開発が進められています。

建築・通信分野での活用

ペロブスカイト型太陽電池の応用は自動車産業にとどまりません。

日揮HDやKDDIとの協力により、建物の壁面や携帯電話基地局への設置に関する実証実験が行われています。

従来の太陽電池と比べて薄く軽量であるため、ビルの壁面などへの設置が容易になります。

また、マクニカとの協力により、小型センサー向けのパネルのサンプル出荷も始まっています。

量産化への道のり

エネコートテクノロジーズは、トヨタ自動車傘下の投資ファンドを含む13社から総額55億円の資金調達に成功しました。

この資金を活用し、2026年には量産工場の稼働を目指しています

さらに、国の補助金なども申請し、今後4〜5年で100億円規模の投資を計画しています。

従業員数も2028年までに現在の3倍の200人規模に拡大する予定です。

市場動向と競合状況

富士経済の予測によると、ペロブスカイト型太陽電池の世界市場は2040年には2兆4000億円規模に拡大すると見込まれています。

これは2023年の65倍という驚異的な成長率です。

一方で、中国やポーランドの企業が工場建設や量産開始を相次いで発表しており、実用化では海外勢が先行していると指摘されています。

日本企業にとって、この競争をいかに勝ち抜くかが大きな課題となっています。

日本の技術力と課題

ペロブスカイト型太陽電池は日本発の技術であり、2000年代から本格的な研究が進められてきました。積水化学工業、東芝、パナソニックホールディングス、カネカなど、多くの日本企業が開発に力を入れています。

しかし、実用化のスピードでは海外勢に後れを取っているのが現状です。日本企業には、技術力を活かしつつ、迅速な実用化と市場展開が求められています。

今後の展望

エネコートテクノロジーズは、生産が難しく付加価値の高い曲面タイプの実用化に注力しています。大手企業との連携を強化しながら、独自の市場ポジションを確立することを目指しています。

産学連携の重要性も高まっており、大学発の技術を産業界で活用する動きが加速しています。ペロブスカイト型太陽電池の実用化は、グリーンエネルギー革命の重要な一翼を担うことが期待されています。

まとめ

曲がる太陽電池は、従来の太陽電池では不可能だった用途を切り開く可能性を秘めています。

個人的に期待しているのは、自動車、建築、通信など日本の強い産業分野での応用できるということです。

中でもトヨタなど日本が世界一の生産を誇る自動車のEVでの利用は、日本製品で世界の需要拡大を牽引することにつながります。

もう一つは、この原料のヨウ素は日本が世界一の埋蔵量を誇るということです。

原料調達が容易かつ安価であることは、太陽電池の安価で安定的な量産のアドバンテージになるとみています。

このような日本の技術革新を応援するのも株式投資の醍醐味です。

今回の関連企業の狙い目としては、ヨウ素生産を担う、伊勢化学(証券券コード: 4107 )、その親会社のAGC(旧旭硝子、証券コード:5201)というところでしょうか。