2000年以降の金の収益率は米株を上回る伸び:ドル離れと金資産の重要性

(出所:2024年6月26日日経新聞)

 

イントロ

21世紀に入ってから、金は驚異的な値上がりを見せています。

2000年初から2024年6月までの約24年間で、金価格は実に8倍以上も上昇しました。

この間、米国株式や新興国株式をも上回る高いリターンを投資家にもたらしてきたのです。

なぜ金がこれほどまでに強い上昇トレンドを描いているのでしょうか。

その背景には、インフレの高進や国際社会の分断といった不安定要因が大きく影響しています。

投資家たちは、こうしたリスクから資産を守るため、「安全資産」としての金に資金を逃避させる動きを強めているのです。

今回は、金価格の上昇トレンドの詳細や要因、そして今後の見通しについて、様々な角度から分析していきたいと思います。

金価格の上昇トレンド

まず、具体的な数字で金価格の上昇トレンドを確認してみましょう。

2000年1月3日の金価格は1トロイオンス当たり282.05ドルでした。それが2024年6月26日時点では2,324.19ドルにまで上昇しています。実に8.24倍の上昇です。

年平均リターンに換算すると、約9.5%となります。

これは、同期間の米国S&P500指数の年平均リターン6.7%や、MSCI新興国指数の7.2%を上回る高水準です。

特に2019年以降は金価格の上昇ペースが加速しています。2019年1月から2024年6月までの5年半で、金価格は約70%上昇しました。

金価格上昇の背景

では、なぜ金がこれほどまでに強い上昇トレンドを描いているのでしょうか。

主な要因として以下が挙げられます。

1. インフレ懸念の高まり

2020年以降、世界的な金融緩和や財政出動を背景に、インフレ懸念が急速に高まりました。

特に2022年には、米国のインフレ率が40年ぶりの高水準を記録。こうした状況下で、インフレヘッジ資産としての金の魅力が増しています。

金は、インフレによる通貨価値の目減りを相殺する資産として伝統的に重視されてきました。物価上昇に伴って金価格も上昇する傾向があるためです。

2. 地政学的リスクの増大

ウクライナ戦争や米中対立の激化など、世界の分断が進む中で地政学的リスクが高まっています。

こうした不確実性の高まりを受けて、投資家の間で「安全資産」としての金への需要が増大しています。

金は、政治的・経済的混乱時にも価値を維持しやすい資産として知られています。

国家間の対立が深まる中、金への資金シフトが加速しているのです。

3. ドル安の進行

米国の金融緩和政策などを背景に、ドル安傾向が続いています。ドル建てで取引される金は、ドル安が進むと割安感が出るため、需要が高まる傾向にあります。

4. 中央銀行の金購入増加

近年、中国やロシアをはじめとする新興国の中央銀行が、外貨準備における金の比率を高める動きを強めています。

こうした中央銀行の金需要の増加も、金価格を押し上げる要因となっています。

5. ETFなど金融商品の普及

金ETF(上場投資信託)の登場により、個人投資家でも手軽に金に投資できるようになりました。こうした金融商品の普及も、金への資金流入を後押ししています。

資金逃避の加速

こうした様々な要因が重なり、世界中の投資家が「安全資産」としての金に資金を逃避させる動きを強めています。

いわゆる「キャピタルフライト(資本逃避)」の加速です。

キャピタルフライトとは、政治的・経済的不安定さから逃れるために、投資家が資金を国外や安全資産に移す現象を指します。

金への資金シフトは、まさにこのキャピタルフライトの一形態と言えるでしょう。

特に新興国からの資金流出が顕著です。

インフレや通貨安に悩む新興国の富裕層が、資産防衛のために金購入を増やしているのです。

例えば、インドでは2023年に金の輸入量が過去最高を記録しました。

中国でも、上海金取引所の金取引高が急増しています。

こうした新興国からの資金逃避は、さらなる通貨安や経済の不安定化につながるリスクがあります。

一方で、金価格の上昇を後押しする要因ともなっているのです。

今後の見通し

では、今後の金価格はどうなるのでしょうか。

これにはいろいろな見方があります。

インフレや地政学的リスクが続く中、金への需要は今後も堅調に推移するとの見方です。

一方で、金価格が既にピークを迎えたとする慎重な見方もあります。実質金利の上昇などを背景に、金価格が2,000ドルを割り込む可能性を指摘する声もあります。

ただし、多くの専門家が一致しているのは、金が長期的な資産分散の観点から重要な役割を果たし続けるという点です。

過去24年間で8倍以上のリターンをもたらしてきた金は、ポートフォリオの安定化に寄与する重要な資産クラスとして評価されてきているのです。

この金は金融危機の際の安全資産としても評価されています。

金融危機時に株式は大幅に下がりますが、一方で金価格は下がらないどころか上昇します。

この面においても、ポートフォリオの安定化に寄与するのです。

2000年から起こった金価格の上昇は、結局ドル離れ(ドルの需要低下)と密接に関わっっています。

中長期的にドル離れが起こる方向なのか、ドル回帰が起こる方向なのか、エネルギー大国ロシア、サウジアラビアの動きを見てれば答えはわかるのではないでしょうか。

ドル離れが起こるという方向と思うのであれば、金資産をポートフォリオに組み込むことを検討してみて下さい。